fc2ブログ

目次



第1話・・・ナゾの古地図(前編)

第2話・・・ナゾの古地図(後編)

第3話・・・奇妙な夢

第4話・・・ナゾの美少女ラミアーナ


スポンサーサイト



ナゾの古地図

フォルキア王国の城下町ラシーディア。
陽は、すっかり落ちて、周囲は夜の闇に包まれていた。

石畳の歩道を、1人の若者が闊歩していた。
歩道に設置してあるガス灯が、その若者の横顔を照らし出した。
ヴェネル・タナディス、17才。
彼は180センチくらいある長身の若者で、
天然パーマのかかった、多少長めの黒髪は、
あまり手入れが、なされていない感じであった。

その茶色の瞳は、飢えた野獣を思わせるような鋭い眼差しをしてはいたが、
彼の全体的な表情から受ける印象としては、
どこか憎めない感じで、自由奔放な子供のような無邪気さを感じさせた。
と同時に、自信がみなぎっているような微笑をたたえていた。

しかし、その自信に満ちた表情とは裏腹に、彼の身なりに目をやると、
裕福な生活をしているとは、およそ言えないような格好をしていた。

彼が身につけている「革の鎧」には、
これまで戦ってきたモンスターなどから受けたキズが、いくつも残っていて、
普通であれば、もうとっくのとうに買い替えてもいいくらい、
この革の鎧は、かなり痛んでいた。

このヴェネルという若者は、あちこちから舞い込む、様々な仕事をこなして、
その日暮らしをしていた――
街の周辺で出没するモンスターの駆除、
行方不明者や、お尋ね者の捜索などなど、種種雑多な仕事である。

こうしたヴェネルの職業は、世間から見れば、
「便利屋」「何でも屋」というような部類に入るのだろうが、
ヴェネル自身は、自分のことを「冒険家」と呼んでいた。

夜の街をしばらく歩いたヴェネルは、
街外れにある、古めかしいレンガ造りの建物の前で、立ち止まった。
この建物には、「アイモス古物店」という看板が掲げられていた。
このアイモス古物店では、
”秘宝などを含む、古物の売買”を、主に行なっていたが、それだけでは無く、
ヴェネルのような「便利屋」に、様々な仕事の斡旋もしていたので、
ヴェネルは仕事を求めて、
このアイモス古物店に、足しげく通っていたのだった。

しかし今日は、仕事をもらうために、
このアイモス古物店に来たわけでは無かった。
「指輪」を売りに来たのだった。

今日ヴェネルは、ガノーフという大蛇のようなモンスターを倒して、
緑色の宝石がはめこんである指輪を手に入れた。

”宝石や金貨などのヒカリ物を収集するクセのあるモンスター”を倒しては、
その住処にある財宝を手に入れて、その財宝を古物商に売って、
カネを稼ぐ――
こうした仕事も、ヴェネルにとっては、貴重な収入源であった。

ヴェネルは、「アイモス古物店」の正面ドアを開けた。
店内には、客は1人もいなかった。
ヴェネルがドアを開けた時に、ドアに取り付けてある呼び鈴が鳴ったため、
奥のカウンターで座っていた50代くらいの男が、立ち上がった。

この中年男が、この店の主人であるアイモスという男だった。
小柄な小太りで、丸渕のメガネをかけ、口ひげをたくわえており、
金色の頭髪は、かなり薄くなっていた。
明るい性格の持ち主で、穏やかで柔和な表情をしていた。

このアイモスという店主と、ヴェネルは、
昔から、親しい間柄であった。

ヴェネルは、カウンターに指輪を置くと、自信ありげに言った。

「ようアイモス。
コイツを買い取ってくれ。」

そのヴェネルの様子を見たアイモスは、笑って言った。

「ほう、やけに自信たっぷりだな。
いいブツでも、手に入ったのか?」

「まあな。
とにかく見てくれよ。」

アイモスは「どれ」と言って、ヴェネルの指輪を手に取った。
そして、しげしげと、その指輪を見た後でアイモスは、渋い顔で言った。

「これまた、粗悪品とまでは言わないまでも・・・
あまり大した価値が無い指輪だな。」

この予想外の低評価に、ヴェネルは眉間にシワを寄せた。

「あ?なに言ってんだよ。
ガノーフっていうヒカリ物が好きなモンスターがいるだろ?
そいつを倒して、この指輪を手に入れたんだ。
ヤツとの戦いで、今日は危うく死にかけたんだぞ。
それくらい苦労して、この指輪を手に入れたんだから、
高い値をつけてくれよ。」

しかし、このヴェネルの訴えにもかかわらず、
アイモスの考えは、変わらないようだった。

「お前が、どう言おうと・・・
これは、どこにでもあるような指輪だな。」

そしてアイモスは、しばらく指輪を見つめた後、言った。

「・・・まあ、お前と俺の仲を考慮して、
それを買取価格に反映してやるとしても・・・
せいぜい2000ディルタってトコだな。」

「たったの2000!?」

もっと高い買取を期待していたヴェネルは、思わず叫んでしまった。
そしてヴェネルはアイモスに訴えた。

「オイ、頼むよ、今月は生活が苦しいんだ。
もっと高い値をつけてくんねーか?」

しかしアイモスは、首を横に振りながら言った。

「ダメだ。
2000よりも高い値段にしたいんなら、
よその店に持っていくんだな。」

これ以上、頼み込んでも、
買取価格が変わらないであろう雰囲気を感じ取ったヴェネルは、
ガックリと肩を落として言った。

「クソ・・・分かったよ。
2000でいいぜ。
換金してくれ。」

アイモスが、2000ディルタ分の紙幣を、ヴェネルに差し出すと、
ヴェネルは、そのカネを、革ズボンのポケットに、ねじこんだ。
(1ディルタは、今の日本円に換算すると、
1円くらいの価値。
つまり2000ディルタは、2000円くらいの価値と言える。)

浮かない顔をしているヴェネルに、アイモスが言った。

「ヴェネルお前、こんな調子じゃ、便利屋も廃業になっちまうぞ。
お前、最近、腕が落ちたんじゃないのか?」

「『腕が落ちた』だと?
ざけんな。
最近は、ちょっとばかり、ツキが無いだけさ。」

「ま、お前が便利屋を廃業になったとしても・・・
俺がお前を雇って、俺の下で、コキ使ってやってもいいがな。」

それを聞いたヴェネルは、苦笑した。

「アンタの下で働くって?
死んでも、お断りだな。」

アイモスは微笑すると、
急に、ある事を思い出した。

「ああ、そうだ、
ヴェネルお前に、渡さなきゃならん物があるんだ。」

アイモスはそう言うと、
背後にある商品棚から、地図を取り出して、
ヴェネルの前に差し出した。

「この地図だ。
『ヴェネルお前に、この地図を渡してくれ』って、
ある貴族の方が、俺に頼んできたんだよ。」

「はあ?
貴族がオレに、その地図を?
『ある貴族』って誰だよ、名前は?」

「いや、悪いが、その貴族の名前とか、素性は言えないんだよ。
その貴族から、口止めされてるからなあ。
悪く思わんでくれ、ヴェネル。」

「はあ???
口止めだあ?」

ワケが分からないヴェネルは、
アイモスが差し出してきた地図を、手に取った。

丸まっている地図を、広げて見てみると、
どうやら、ただの世界地図らしかった。

地図の大きさは、
縦20センチ、横30センチくらいで、そう大きい地図では無かった。

この世界地図を見た第一印象は、
とにかく古くて、ボロボロといった感じであった――
虫にでも食われたのだろうか、
地図のところどころに、小さな穴が空いていた。
また、その古さゆえであろう、インクは、かなり薄くなっていた。

しかし「普通の世界地図」とは違う点が、1つだけあった。
ヴェネルが今見ている、この古地図のあちこちには、
「立っている姿をした人の形のようなもの」が、描かれていたのである。

この「立っている人の姿をした棒人形のようなもの」は、
黒いインクで、比較的ハッキリと、世界地図の中に描きこまれていた。

また、この「人の形をしたマーク・記号らしきもの」を数えてみると、
全部で15体くらい、この世界地図の中に描かれていた。

ヴェネルは、アイモスに聞いた。

「何の地図だよ、このきったねえ地図。
ただの世界地図みたいだけど・・・
でも、このあちこちにある『人のマーク』は、何なんだ?」

「おや?
これが何の地図なのか、
ヴェネルお前、知ってるんじゃないのか?」

「知らねえよ。
なんで、『オレがこの地図について知ってる』って思うんだよ?」

「いや、だってな、『この地図は、何の地図なんですか?』って
俺が、その貴族に聞いた時、
その貴族は『ヴェネルが、その地図について知ってるから、
渡せば分かる』って話してたぞ。」

「はあ???
この地図について、オレが知ってるって?」

ヴェネルは、もう1度、目の前にある古地図を見直してみた。
しかし、いくらこの古地図をじっくり見直してみても、何1つ思い出せなかった。

「・・・いや、オレが知ってるワケねえよ。
コイツは、初めて見る地図だからな。」

するとアイモスは、首をかしげて言った。

「そりゃ、おかしいなあ・・・・
でもな『この店に、よく出入りしているヴェネル・タナディスという若者に、
この地図を渡してくれ』って、
その貴族は、俺に頼んできたんだよ。
『この店に、よく出入りしている
ヴェネル・タナディスという若者』って言ったら、
ヴェネルお前しか、いないだろ?」

それを聞いたヴェネルは、何回かうなずくと、
目の前にある古地図をみつめて、少し考えこんだ。
そしてヴェネルはアイモスに言った。

「・・・『渡す相手が、間違いなくオレだ』としても・・・
だいたい、なんで貴族がオレに、この地図を?
オレは、貴族に知り合いなんて、1人もいないっていうのによ。
まあ、貴族の連中の汚れ仕事を、
何回か引き受けた事くらいなら、あるけど・・・。
あとそれと・・・そんなにこの地図をオレに渡したいんなら、
その貴族が、直接オレに、この地図を手渡せばいいじゃねえか。
なんでそうしないで、その貴族は自分の名前を隠したり、
ヘンな事をするんだ?」

するとアイモスは「さあ?」という感じで、
両手を大きく左右に広げた。

「俺に聞かれても困るね。
とにかく、その貴族から、
『この地図を、ヴェネルに渡してくれ』って、俺は頼まれたんだ。
だからヴェネル、こいつを受け取ってくれ。」

そうアイモスは言うと、再度、古地図をヴェネルの前に差し出した。
だがヴェネルは、受け取ろうとはしなかった。
ヴェネルは、しばらくの間、
鋭い眼差しで、その古地図を見つめていた。
そして少し考えた後で、言った。

「・・・こんなモン、受け取るのは、ゴメンだ。
なんか気にいらないぜ。
そんなに、この地図をオレに渡したいんなら、
その貴族が、直接オレに、手渡すべきだろうが。
なんでオレに、この地図を渡したいのか――
その理由も、キッチリ説明した上でな。
だいいち、自分の素性すら、口止めするなんて、
その貴族、やたらアヤシイよな?
そんなヤバい貴族の地図なんざ、受け取るのは、お断りだぜ。」

するとアイモスは、困った顔をした。

「いや、そいつは困るよ。
この地図を、受け取ってくれよ。」

「あ?なんでアンタが困るんだよ?
もし、またその貴族がこの店に来たら、
『ヴェネルに断られた』って言って、
その地図を、その貴族に返せば、それで済む話だろ?」

「いや、それが、
そうも、いかないんだよ。
『その貴族の名前とか詳しい事は話さないで、
この地図を、ヴェネルお前に渡す』っていう条件で、
俺は金貨3枚を、その貴族から、もらっちまってるからなあ。」

ヴェネルは驚いた。

「オイオイ、『オレに、そのきたねえ地図わたす』ってだけで、
アンタ金貨3枚も、もらったのかよ?」

「ああ。
実は、その貴族は、俺のお得意さんでな。
その貴族は、今回もそうなんだが、以前から金払いがいいんだよ。
昔なじみのお客さんから、カネを受け取っておいて、
地図を、ヴェネルお前に渡さないわけにもいかないだろう?
だから頼むよ、この地図を受け取ってくれよ。」

ヴェネルとしては、あくまで地図の受け取りを拒否するつもりだったが、
度重なるアイモスの懇願を前にして、
やむなく友人であるアイモスの頼みごとを聞き入れてやる事にした。

「・・・ったく、しょうがねえなあ。
コイツを受け取れば、いいんだろ?」と言うと、
ヴェネルはイヤイヤその地図を手にした。

するとアイモスは、ホッとした表情を浮かべた。

「いや、悪いな、ヴェネル。
助かったよ。」

「いつもアンタには世話になってるから、
仕方なく、地図を受け取ってはやるけどよ」と言った後、
ヴェネルは腕組みをして、
首をかしげながら、つぶやいた。

「それにしても、妙な話だよな。
その貴族は『オレがこの地図について、知ってる』って言ったんだろ?
でもオレには、この地図にゼンゼン見覚えがねえんだ。」

「そうか・・・じゃあ今度また、その貴族が、ウチの店に来たら、
その地図について、ちゃんと詳しいことを聞いておくよ。」

ヴェネルは、この古地図の中に描かれている
「立っている姿をした人の形のようなもの」を指差して、アイモスに尋ねた。

「なあアイモス、この地図のあちこちにある『人のマーク』、
いったい何だと思う?」

アイモスは、肩をすくめて「さあな」と言った後で、
面白おかしそうな表情で話し始めた。

「あんがい、その人のマークが描かれている場所には、
『今まで見たこともないような秘宝』が眠ってるかもしれんぞ。
その地図を持って、宝探しに出かけたら・・・
もしかするとヴェネルお前は、億万長者になれるかもしれんなあ。」

このアイモスの調子の良い話に、ヴェネルは思わず笑ってしまった。

「そんなオイシイ地図なら、このオレに、くれたりしないだろ?
その貴族が自分で、お宝を探し行くんじゃないのか?
・・・なあ、この地図を受け取ってはやるけどよ、
その代わり教えろよ、その貴族の名前をよ。
いったい誰なんだ?」

するとアイモスは、困った顔をした。

「悪いが、そいつはダメだ。
さっきも言ったように、その貴族は、俺のお得意さんで、
これからの仕事のこともあるからな。
『その貴族の名前とかは明かさないで、
地図を、ヴェネルお前に渡す』っていうのが条件で、
今回の依頼を、俺は引き受けたんだ。
そのお客さんとの約束を、やぶるわけにはいかないだろう?」

「なんだよ、やたらマジメだな。
オレはこんな地図、ゼンゼンいらねえのに、
アンタがしつこく頼み込んできたから、仕方なく受け取ってやったんだぜ。
アンタとオレの仲だ、少しくらい教えてくれたって、いいじゃねえかよ。」

そうヴェネルが、多少不満げに言ったので、
アイモスは、困ってしまった。
しばし迷った後でアイモスは、腕組みをしながら口を開いた。

「うーん、しょうがない。
さすがに名前は、教えられないが・・・女だ。
ヴェネルお前に、その地図を渡すよう、俺に頼んできたのは、
貴族のご婦人だよ。
いつもは『使いの者』をよこして、俺に仕事を頼んでくるんだが、
今日は、そのご婦人が自分で、この店へやって来たんだ。
珍しいよ。」

「ふーん、貴族の女ねえ・・・
で、どんな女なんだ?
若いのか?それともオバハンか?」

アイモスは、苦笑して言った。

「もうこれぐらいでいいだろう、カンベンしてくれよ。
もう夜も遅い。
今日は、俺も疲れているから、
続きがあるんなら、明日にしてくれないか。」

するとヴェネルは、”仕方ない”という感じで、
何度かうなずいた後で、言った。

「・・・ああ、分かったよ。
その代わり、金貨を1枚、オレにくれよ。
アンタは『地図を、オレに渡す』ってだけで、
金貨を3枚も、その貴族から、もらったんだろ?
だったら、1枚くらい、オレにくれてもいいんじゃねえのか?」

アイモスは、苦笑して言った。

「これは、ダメだ。
全部、俺のものだ。
だがまあ・・・
『お前がギャンブルで、俺に借りてたあのカネ』は、全部チャラにしてやろう。」

するとヴェネルは、目を輝かせて言った。

「マジか!?」

「ただし!
もういいかげん、ギャンブルにのめりこむのは、やめろよ。
俺も、そう何度も、お前の尻ぬぐいをするのは、ゴメンだからな。」

「分かったよ。これからは、ホドホドにするって。
じゃ、これ以上、長居すると、
アンタお得意の、ながーいお説教が、始まるかもしんねえから、
そろそろ帰るとするわ。」

アイモスは苦笑した。

「言ったな。
だいたい、お前の生活が、あんまりにも、だらしがないから、
ついつい、こっちも言いたくなるんだ。
お前も、いいかげん遊んでばかりいないで、
稼ぎをあげられるように、もっと頑張れよ。」

「ああ、こんなボロボロの地図じゃなくて、
ピカピカの高級鎧が、イッパツで買えるくらいの、高給の仕事を、
アンタがオレに紹介してくれたらな。」

それを聞いたアイモスは、吹き出しそうになった。

「そんないい仕事があるんなら、お前に紹介しないで、
俺が自分でやるだろうな。」

ヴェネルは笑った。

「じゃあな、アイモス。
また来るわ。」

ヴェネルは、そう言うと、奇妙なナゾの古地図を手にして
アイモスの店を、あとにしたのだった。

次のページへ(第2話へ)

ナゾの古地図(後編)

ヴェネルの自宅は、アイモスの店から歩いて15分くらいの場所にあった。
ヴェネルの家は、狭い部屋が、2部屋しかない平屋で、
見た目は、丸太小屋のようで、いささか粗末な感じがした。

もう夜の22:00は過ぎていたので、
ヴェネルが、玄関のカギを開けて家の中へ入ると、
当然、家の中は、真っ暗であった。

ランプに火をともして、部屋を明るくしたヴェネルは、
ベットの近くまで行くと、
革ズボンのポケットに手をつっこんで、
さっきアイモスから渡された紙幣を取り出した――

それは指輪の代金として、さっきアイモスから、もらった紙幣である。
ヴェネルは、その紙幣を、渋い表情で見つめた。

(クソ、たったの2000ディルタかよ。)

ため息をつきながらヴェネルは、
その2000ディルタ分の紙幣を、テーブルの上に置いた。

次にヴェネルは、革ズボンのポケットから、地図を取り出した。
それは、さっきアイモスから手渡された古地図である。
この古地図を見ながらヴェネルは、
さきほどアイモスとかわしたばかりの会話を思い出していた。
その会話の中でも、
妙に気になったアイモスの言葉が、ヴェネルの脳裏に、よぎった――

「その貴族は、こう言ってたぞ――
『ヴェネルお前が、その地図について知ってるから、
地図を渡せば、ヴェネルは分かる』ってな。」

このアイモスの言葉を、思い出したヴェネルは、
首をひねった。

(オレが、この地図について知ってるって?
・・・・・・いや、知ってるわけないよな。)

そう思った後ヴェネルは、古地図を何気なく裏返しにしてみた。
その時、「オヤ?」と思った。
古地図の裏側を見てみると、
アイモスの店では気づかなかった事を、1つ発見したのだった――
古地図の裏側には、なにやら文章が、書かれていたのである。
その文章は、古地図の左下の隅に、数行、書かれていた。
文章に使用されているインクは、新しい感じなので、
どうやら最近、書き加えられた文章らしかった。
しかしその文章は、ヴェネルには読めない文字で書かれていた。

(どこの国の文字だ、こりゃ?
見た事がねえ文字だな・・・)

しばらく、その文章を見つめた後で、ヴェネルは思った。

(アイモスなら、この文字が読めるかもしれねえな。
明日にでも、アイモスの店に行って、この文章を見せてみるか。)

そう思った後ヴェネルは、古地図を丸めて、
テーブルの上に置いた。

すると急に、強い眠気を感じた。
今日は、ガノーフというヒカリ物が好きなモンスターとの激闘があったので、
きっと疲れてるんだろう――
そう思ったヴェネルは、早めに寝ることにした。

ランプの光を消したヴェネルは、ベットの中で横になった。
するとヴェネルは、数分もたたない内に、
寝息をたてて、深い眠りについた――

次のページへ(第3話へ)

奇妙な夢

ベットの中で、深い眠りの世界に入ったヴェネルは、夢を見ていた。
夢の中でヴェネルは、月明かりが照らし出す、夜の街を歩いていた。
アイモスの店の前まで歩いてきたヴェネルは、そこで立ち止まった。
そしてヴェネルは、
アイモスの店の窓ガラス越しに、店内の様子を見た。

すると店の中にはアイモスが、ただ1人いるだけで、
客は1人もいなかった。

店内でアイモスは、
カウンターの背後にある商品棚の方を向いて、仕事をしていた――
つまりアイモスは、店の外にいるヴェネルに、背を向けるような形で、
仕事に没頭していた。

そこへ1人の女が、アイモスの店へやってきた。
その女が、正面ドアを開けて、アイモスの店の中へ入った時、
正面ドアに取り付けてある呼び鈴が鳴った。
しかしアイモスは、来客に全く気づいていない様子だった。
女やヴェネル、正面ドアに背を向けたままアイモスは、
相変わらず、商品棚に置いてある商品をいじっていた。

女が、アイモスに近づいていった。
その時ヴェネルは窓越しに、その女の横顔を見たが、
その女については「よく知っている女だ」と思った。
しかし、なぜだか、その女が誰なのか、全く思い出せなかった。

アイモスに近づいていった女は、途中で立ち止まると、
そこで、腰に差していた剣を引き抜いた。

それを見たヴェネルは、ギョッとした。
(この女、何をするつもりなんだ?)

とその時、その女が突然、
窓越しに店内を見ているヴェネルの方を振り向いた。
ヴェネルと目が合うと、その女は、非常に冷酷かつ残虐な笑みを浮かべた。

その冷笑を見た時、ヴェネルは背筋がゾッとした。
と同時に、その冷笑を見た瞬間、ヴェネルには分かった――
「この女は、これからアイモスを殺すつもりだ」と。

すぐにヴェネルは、アイモスを助けるために、正面ドアへ向かおうとしたが、
なぜだか足が全く動かなかった。

しかし上半身は動かすことが出来たので、
ヴェネルは、アイモスの名を何度も叫びながら、
目の前にある窓ガラスを、必死に叩いて、
アイモスに、女の存在を知らせようとした。
ヴェネルが何度も、アイモスの店の窓ガラスを強く叩いたので、
窓ガラスを叩く大きな音が、周囲に響き渡った。

しかし、なぜかアイモスは、全く気づいてくれなかった。
相も変わらず何事もないかのように、ヴェネルや女に背を向けたまま、
商品棚にある商品をいじっていた。

そんなアイモスの様子に苛立ったヴェネルは、
「窓ガラスを叩き割れば、さすがにアイモスも気づくだろう」と思った。
ヴェネルの目の前にある窓ガラスは、非常に薄い感じだったため、
普通の男が、思い切り叩けば、
簡単に割れてしまいそうな窓ガラスであった。
そのためヴェネルは、目の前にある窓ガラスを叩き割るため、
非常に強い力で、何度も窓ガラスを叩いた。
しかし、どんなに強く叩いても、
なぜか、薄いはずの窓ガラスを割ることは出来なかったし、
この窓ガラスにヒビ1つ、入れる事すら出来なかった。

そうこうしている内に、剣を手にした女が、
1歩、また1歩と、アイモスに近づいていった。

そしてついに、アイモスのすぐ後ろに立った女が、
アイモスに向かって、剣を振り上げた時、
ヴェネルは「アイモス!!!」と叫んだ。

しかし、その叫びも空しく、
女が背後からアイモスの事を、剣で一突きにした。

アイモスは、背中から胸のあたりを、女の剣によって突き刺された。
アイモスの体から、血が大量に吹き出て、
アイモスはグッタリと、その場に倒れこんだ。

倒れこんだアイモスの背後には、
アイモスの血を全身に浴びて、血まみれになった女が、
ヴェネルに背を向けたまま、全く身動きもせずに、
その場で立ちつくしていた。

と、その瞬間だった。
さっきまで動かそうと思っても、
全く動かすことが出来なかったヴェネルの足が突然、
自由に動くようになった。

アイモスが殺され、怒りにかられたヴェネルは、
店内に入るため、店の正面ドアへ向かった。

しかし、その時「ドシン!!!」と、ものすごく大きな地響きがした。
そして大きな黒い影が、ヴェネルを覆った。
何事かと思って、後ろを振り返ると、ヴェネルはギョッとした――
ヴェネルの背後には、
10メートルはあろうかという巨人が、立っていたのである。

その巨人は、大きな右手を、ヴェネルの方へ伸ばして、
ヴェネルを捕まえようとした。

ヴェネルは、とっさに左の方へ跳ぶことで、
巨人の手を、かろうじて、かわした。
もう少し、ヴェネルの反応が遅ければ、
巨人に捕まったかもしれないという、ギリギリのところであった。

すると「ドシン!!!」と1歩、巨人がヴェネルの方へ近づいてきた。
その動きに対してヴェネルは、
剣を引き抜いて、巨人に立ち向かおうとしたが、
うまく体を動かす事が出来なかった。
なぜだか、とにかく体が重かった。

次に巨人は、左手を伸ばして、ヴェネルを捕まえようとした。
ヴェネルは、その左手を切り裂くため、
巨人の左手に向かって、思い切りよく、剣を振った。

しかし、そのヴェネルの動きを、よく見ていた巨人は、
左手をヴェネルの方へ伸ばすのを、途中で止めて、
そればかりか左手を少し引っ込める事によって、
自分の左手とヴェネルの間に、少し距離をあけた。

そのためヴェネルは剣で、巨人の左手を切り裂くことが出来ずに、
空振りしてしまった。
しかもヴェネルは、かなり大振りぎみで剣を振ってしまったため、
大きく体勢を崩してしまった。

そこへすかさず巨人は再度、左手を伸ばして、ヴェネルを捕まえようとした。
ヴェネルは、それも何とか、かわそうとしたが、
すでに体のバランスを崩してしまっていたため、
今度はうまく逃げ切れずに、ヴェネルは巨人に捕まってしまった!
巨人の大きな左手で、ガッシリと全身を握られたヴェネルは、
全く身動きがとれなくなった。

ヴェネルは「離せ!このヤロウ!!」と、わめいたが、
巨人には全く通じず、何の効果もなかった。

ヴェネルを捕らえた巨人は、ヴェネルの事を、片手で軽々と持ち上げると、
自分の顔に近づけて、しげしげとヴェネルのことを見つめた。

ヴェネルも燃えるような目で、巨人のことを、にらみつけた。
夜の月明かりで、うつし出された巨人の肌は、まるで岩のようで、
巨人の目玉は黒く、その目に生気は無かった。
「コイツは、動く石像かよ」と、ヴェネルは一瞬、思った。

しばらく巨人は、ヴェネルのことを見つめた後、大きく口を開けた。
そして巨人は、ヴェネルを握りしめていた自分の左手を、
どんどん口の中へ近づけていった。
その瞬間ヴェネルは「食われる」と悟った。

このままでは、巨人に食い殺される――
ヴェネルは、なんとかして巨人の手から逃げようと、必死にもがいたが、
ガッチリと握られていたので、ほとんど身動きがとれなかった。

巨人の口が、ヴェネルの眼前に迫ってきた。
巨人の口から吐き出される異臭(口臭)が、ヴェネルの鼻をついた。
そして、まさにヴェネルが、巨人の口の中へ放りこまれる、その瞬間、
ヴェネルは「やめろ!!!」と叫んだ。
その時であった。ヴェネルは、ようやく目を覚ました。

次のページへ(第4話へ)

ナゾの美少女ラミアーナ

目を覚ましたおかげで、
ようやく「夢の世界」から「現実の世界」へと戻ってこれたヴェネルは、
しばらくの間、固まったように、ベットの中で横になっていた。

「ハアハア」という荒いヴェネルの呼吸のみが、
静寂な真夜中の部屋に、響いていた。

ヴェネルがベットから上半身をおこすと、
全身、汗ビッショリであった。

ヴェネルは、うんざりしたような顔で、つぶやいた。
「なんだ、夢かよ…………」

ベットのそばにあるランプの明かりをつけたヴェネルは、
ベットに座り込んだまま、しばらく自分の部屋を見回した。
そして間違いなく、ここが自分の部屋であり、
さっきのが夢であったことを再確認すると、
ヴェネルは深い安堵の息をついた。

さっきの悪夢のせいで、全身、大量の汗をかいたせいだろうか、
やたらとノドが乾いたので、
ヴェネルは水を飲むために、立ち上がって、台所まで歩いて行った。
そして台所においてある、水筒に入った水を飲み干したヴェネルは、
ホッとため息をつくと、再びベットのそばまで戻ってきた。

そして、さっきの悪夢を思い出したヴェネルは、
だんだんムカムカしてきた。

(くそ……なんだって、あんなロクでも無い悪夢なんざ、見たんだ?
悪夢に、うなされるなんて、めったに無いってのによ……)

そう思った時、たまたま、
テーブルの上に置いてある、あの古地図が目に入った。
その古地図を見た時、ヴェネルは苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

(くそ……コイツを、もらったせいじゃねえのか?
コイツは『呪いの地図』か、なんかかもしんねえなあ。
だいたい、この地図をオレに渡そうとしてきたのは、
自分の名前すら、オレに隠そうとする、アヤシイ貴族だしな……
なんだか、うす気味わりいから、この地図は捨てちまうか……)

そう思ったヴェネルは、古地図を手にとった。
そしてハンガーにかかっている上着のポケットの中へ、
この古地図を入れた。

明日、この上着を着て、
公園のゴミ箱にでも、この古地図を捨てに行くためであった。

しばしヴェネルは、古地図を入れた上着の事を、ボーと見ていたが、
その瞬間だった!
ベットのそばにある窓に、人影がうつったように感じた。
ハッとしてヴェネルは、その窓に目をやったが、誰もいなかった。

すぐにヴェネルは、その窓のそばまで行った。
そして、その窓ガラスに顔をくっつけて、外を見回したが、
誰もいなかった。

(気のせいか?
いや……さっきは間違いなく、この窓に人影がうつったように見えたな。
……念のため、外に出て、
家のまわりを、グルっと見まわった方が、いいかもしんねえな。)

そう思ったヴェネルは、まず最初に、
テーブルの上に置いてある剣を、手に取った――
もし物盗りなどが、外にいたら、危険だからである。

それから玄関へ向かったヴェネルは、
しばらく玄関のドアに、顔を近づけて、周囲の気配をうかがった。
しかし何の物音もしないし、人の気配も無かった。

(玄関のまわりには、誰もいねえみてえだな。)

そう思ったヴェネルは、玄関にかかっている錠前をはずして、
玄関ドアを、少し開けた。

その瞬間だった!
何者かが、玄関ドアを蹴り開けて、
ものすごい勢いで、ヴェネルの家の中へ飛び込んできた!

その侵入者は、短めの剣を手にしていて、
突然ヴェネルに斬りかかってきた――
侵入者は、ヴェネルの肩のあたりを狙って、剣を振るってきた。

ヴェネルは、とっさに剣を、自分の肩の高さくらいにまで上げて、
侵入者の剣を弾いた。

次に侵入者は、ヴェネルの太モモの辺りを狙って、攻撃してきたので、
ヴェネルは再び剣で、その攻撃も受け止めた。

その後も侵入者は何度も、ヴェネルに斬りかかってはきたが、
”頭や胸といった急所への攻撃”というよりは、
なぜか、ヴェネルの手足などを狙うような攻撃が多かった。

侵入者による、それらの全ての攻撃を、ヴェネルがかわした時、
ヴェネルと侵入者の間の距離が縮まったので、
ヴェネルは強く、自分の右肩を、侵入者の体にぶつけて、
侵入者を思い切り、突き飛ばした。

ヴェネルの力強いショルダー・アタックを喰らった侵入者は、
体のバランスを崩して、あやうく倒れそうになったが、
なんとか体勢を立て直して、
ヴェネルから少し離れた位置で、侵入者はヴェネルと向き合った。

ここで初めて、ヴェネルと侵入者の目が合った。
侵入者の顔を見て、ヴェネルは驚いた。
よく見ると、女である。
侵入者は小柄だったので、
最初ヴェネルは、侵入者のことを、少年かと思っていた。

しかしヴェネルの目の前にいるのは、
栗色髪のポニーテールの女であった。

若い女で、
年令は、17才のヴェネルと、おそらく同じくらいであろう。
よく見ると、目鼻立ちの整った、なかなかの美人である。

女は鋭い目で、ヴェネルのことを見据えながら、剣を構えてはいたものの、
どうすべきか、少し迷っている様子だった。
しかし、その迷いも、ほんの少しの間にすぎなかった。

女は、何か強い意を決すると、殺意に満ちた目つきで、
猛然とヴェネルに向かって、斬り込んできた。

女が次々と繰り出してくる剣による攻撃は、
さっきまでの攻撃とは、全く違っていた――
最初の内は、ヴェネルの手足など、
急所以外を狙うような攻撃ばかりだったが、
今度は、頭や胸といった急所ばかりを狙って、
女は鋭く剣を振るってきたのである。

勢い、ヴェネルも、本気を出さざるをえなかった。
女によって、次から次へと繰り出されてくる鋭い攻撃を、
ヴェネルは次々と剣でいなしていった。
剣と剣がぶつかりあう鋭い音が、部屋の中に飛びかった。

女は大きく1歩ふみこむと、
ヴェネルの頭部めがけて、少し大振りぎみに、剣を振るった。
その瞬間を、ヴェネルは見逃さなかった。
ヴェネルは、自分の剣でもって思い切り、女の剣をはたいた。
女は、その衝撃から、剣を落としてしまった。

急いで女は、床に落ちた、自分の剣を拾おうとしたが、
ヴェネルの動きの方が、素早かった。
ヴェネルは、女の顔のすぐ近くに、自分の剣をつきつけた。
その瞬間、女の顔には、絶望と恐怖の色が浮かんだ。
これで勝負はあった。
この時、女が少しでも逃げようものなら、
ヴェネルは即座に、この女の首をはねる事ができただろう。
もちろん、この場で、この女を殺すことも出来たが、
あえてヴェネルは、とどめをさそうとは、しなかった。

女の顔に、剣を突きつけたまま、1歩ヴェネルが前進すると、
1歩、女が後退した。
再び1歩ヴェネルが前進すると、再び1歩、女が後退した。
それと同じ動作を繰り返して、3歩くらいヴェネルが前へ進み、
同じく3歩くらい女が後退すると、
女は、壁際へ追いつめられた。

ヴェネルは、壁際へ追いつめた女のノド元に、剣の切っ先を突きつけた。
すると女の顔は、みるみる内に、青ざめていき、
恐怖心が、あらわになった。
ヴェネルは叫んだ。

「てめえ、一体、なにモンだ!!!」

しかし女は、何も答えなかった。
女の体は、小刻みに震えていて、
顔には、恐怖が張り付いていた。

”てめえ、一体なにモンだ?”というヴェネルの質問に、
女が何も答えなかったので、ヴェネルは言葉を続けた。

「物盗りか!?
だったら、アテがハズレたなあ!
ここらは、貧乏人が住む土地だからな!
金目のものなんざ、ねえぜ!」

そうヴェネルが言うと、
震える声で、女が話しはじめた。

「ち、地図を探しにきたの……」

ヴェネルは、けげんそうな顔をした。

「地図?」

「そ、そう。
巨人の地図……
アイモスっていう古物店の主人に聞いたら、
『地図なら、さっきアナタに渡したばかりだ』って言ったから……
そ、それで、ここへ来たの……」

「あ?地図って、あのきたねえ地図のことか?
地図を探し来ただけなら……
だったら、なんで、いきなりオレに斬りかかってきた!?
『地図を探しに来たんだけど、
地図を持ってるか』って一言、オレに聞けば、
それで済む話じゃねえか?」

「だ、だって、アナタ、教団の者でしょう?
教団の連中が、地図をおとなしく渡すわけは無いから……」

「教団?」

「そ、そう。
デファド教団の人間なんでしょ?」

ヴェネルは、ポカンとした表情で言った。

「『デファド教団』って……なんだよ、そりゃ?
知らねえよ、そんなの。
なんの話だ?」

すると女は驚いた。

「え?
ち、違うの?」

”ヴェネルが、デファド教団の人間では無いらしい”と分かった瞬間、
”ヴェネルに対する、女の恐怖心や警戒心”が急減したのは、
その女の表情からして、明らかだった。

女の心境の変化を感じ取ったヴェネルは、
女のノド元に突きつけていた剣を下ろした。
そしてヴェネルは、片手で頭をかきながら言った。

「教団だの、地図だのって……
さっきから、テメエの言ってる事は、ワケ分かんねえよ。」

そう言うとヴェネルは、
ハンガーにかかっている上着の方へ、歩いていって、
その上着のポケットに入っている地図を取り出した。
それは、さっきアイモスから、もらった古地図である。
ヴェネルは、その古地図を広げて、女に向かって見せた。

「お前が言ってるのは、この地図のことか?」

女は、その古地図に描かれている「人のマーク」を凝視した後、
何度か、うなずいて言った。

「た、たぶん……」

「欲しけりゃ、くれてやるぜ、こんなモン。」

そうヴェネルは言うと、
女の方に、古地図をほうり投げた。

女は、古地図を受け取ると、
あっけにとられたような表情で、ヴェネルに尋ねた。

「この地図を、私にくれるの?」

するとヴェネルは、古地図を指さしながら言った。

「ああ、そんなきったねえ地図、2枚でも3枚でも10枚でも、
欲しけりゃ、いくらでも、くれてやるさ!
別に金目のモンでも、なさそうだしなあ!
第一オレは、初めっから、そんな地図、ゼンゼンいらねえんだよ。
『そんな地図いらねえ』って、何度も断ったのに、
アイモスから『受け取れ』って、
その地図は、ムリやり押し付けられたモンだからな。」

こうしたヴェネルの言葉は、
女にとっては、全くの予想外だったらしい。
そのため女は少し、とまどったように言った。

「あ、あなた、いったい何者なの?」

するとヴェネルは、大いに呆れ返ったように言った。

「オイオイ!
そりゃ、こっちのセリフだろーが!?
こんな真夜中に、人の部屋に、土足で踏み込んできて、
いきなり斬りかかってきやがって、ふざけんなっつーの!
そう言うオマエこそ、一体なにモンだよ!」

すると女は少し、ためらいがちに話した。

「わ、わたしは……ロズシークの者。」

「ロズシーク??」

「そう。
あなたのその様子だと、私たちの組織を知らないみたいね。
あなたが教団と無関係の人なら、
私たちの組織を知らなくても、ムリは無いと思うけど……
ロズシークは、表立って活動している組織じゃないから。
……ロズシークは、巨人を倒すために、いろいろと活動してる組織で、
私は、そのメンバーなの。」

ヴェネルは、ワケが分からない顔をして、女に尋ねた。

「『巨人を倒すために、いろいろと活動してる組織』って……
なんだよ、それ?」

すると女は、古地図をヴェネルの方に向けて、
「人のマーク」を指さした。

「この地図に、人のマークがあるでしょう、
そこに巨人がいるから、
ロズシークは、その巨人を倒すために、いろいろと活動してるの。」

「巨人??」

「そう。あなたも知ってるでしょ?
以前、巨人が突如、あらわれて、
その巨人によって、アルバランっていう王国が、滅ぼされたってこと。」

「ああ……なんか聞いた事ある話だよな。
でも、そりゃ、ずいぶん昔の話だろ?
たしか……100年くらい前の話じゃねえか?」

「正確には、107年まえの話。
その巨人と、ほぼ同じような巨人が、
世界各地に眠ってるの。
だから、このまま巨人を放っておくと、危険だから……
巨人たちが目覚める前に、巨人を倒すために、
私たちロズシークは、活動してるの。」

ヴェネルは、よく分からないような表情で、うなずきながら言った。

「巨人を倒すためにねえ……
で?
その巨人とその地図に、何の関係があるってんだ?」

「だから……
この地図には『巨人が眠っている場所』が描かれているから。
巨人の居場所をつきとめて、巨人を全滅させるには、
この地図がどうしても必要なの。」

するとヴェネルは、ようやく女の話を理解できたらしかった。

「ああ、なんとなく分かってきたぞ、
その『人のマーク』があるところに、眠れる巨人がいる――
で、巨人を倒す組織に入ってるアンタは、
これから、その古地図を持って、巨人を探しに行って……
そんでもって巨人が見つかり次第、
そいつをドンドン倒していくつもりってわけだ。」

女は、微笑して言った。

「まあ……分かりやすく言うと、そんな感じかな。」

するとヴェネルは女に、もう1つ質問をした。

「さっきオレのことを『教団』とかなんとか、言ってたよな?
その……ナントカ教団だっけか?
そりゃ一体、何なんだ?」

女が答えた。

「デファド教団。
その教団が今、『眠れる巨人』を目覚めさせ復活させて、
この世界や文明を、破壊しようとしてるの。
デファド教団は、その狂った野望を果たすために今、血まなこになって、
この『巨人の地図』を探してる。
アナタは、この巨人の地図を持ってたから、
当然アナタも、教団の関係者かと、私は思ったの。
でも、なんだか違うみたいね……」

するとヴェネルは、やけに堂々とした態度で言った。

「ああ、ゼンゼン違うね!
だいたいオレは『教団』だの『宗教』だの、そんな退屈なモンには、
縁もゆかりも無い男でね!
で?なにか?
オレのことを、その教団の関係者だって、アンタは勘違いして、
ムリやりその地図を、オレから奪おうと思ったってわけか?」

「そう。
あなたが教団の連中なら、この地図を、おとなしく渡すわけは無いから。
できれば、あなたを生け捕りにして、
地図のありかを聞こうと思ったけど……」と、
そこで女が、いったん言葉を切ると、
ヴェネルが、その後を次いで言った。

「……生け捕りがムリなら、オレを殺してでも、
その地図を手に入れるつもりだったってワケか?」

このヴェネルの言葉に対して、
女は黙って、うなずいた。

(どうりで最初は、オレの急所を狙わなかったわけだ。)
そうヴェネルは思った。

ヴェネルが地図を、どこかに隠していたら、
ヴェネルを殺してしまっては、
地図の場所が分からなくなってしまう恐れがあったので、
女は、できればヴェネルを殺さずに、生け捕りにしようとした。
そして生け捕りにするために女は、
最初の内は、ヴェネルの急所を狙わずに、主に手足などを攻撃した。

しかし”そんな手加減じみた攻撃では、
ヴェネルを倒せない”という事が、途中で分かったので、
それからはヴェネルを殺すために、本気を出して、
急所攻撃に切り替えたのだろう。

これで、この女についての疑問は、ほとんど解けた。
もう、この女には、
聞くべき事も、話すべき事も無い――
そうヴェネルは思った。

するとヴェネルは、強い眠気を感じた。
ロクに寝ていないためであった。
悪夢には、うなされるわ、
その直後には、目の前にいる女に、いきなり斬りつけられるわで、
今夜は、さんざんな目に会わされたせいで、
ほとんど寝ていないのである。

ヴェネルは、大あくびをしながら、女に言った。

「じゃあ……もういいだろ?
地図は手に入った。
文句は、ないよな?」

女は、キョトンとした顔で答えた。

「え?
ええ……」

するとヴェネルは、女を追い払うように、手を何度か振りながら言った。

「じゃあ、さっさと帰っちまいなよ。
巨人でも、ドラゴンでも、何でも好きに倒してくれ。
その地図も、アンタも、アンタの組織も、ナントカ教団も、
もうオレとは、何の関係もないからな。
じゃあな。」

そう言うとヴェネルは、ベットにゴロンと寝転がってしまった。
すると女は、申し訳なさそうに言った。

「わ、分かったわ。
あの……いろいろと迷惑かけてゴメンなさい。
それと……この地図、どうもありがとう」と言って、
女は立ち去ろうとした。

と、その時、
ヴェネルの頭に、ある考えが、ひらめいたため、
ヴェネルは急にベットから起き上がった。
「ちょっと待った!
アンタには、もう1つ聞きたい事がある。」

立ち去りかけていた女は、立ち止まって、ヴェネルの方を見た。
ヴェネルは、女に尋ねた。

「『アイモスが、その地図を持ってる』って事を、
アンタは、どうやって知ったんだ?」

女が答えた。

「それは……私は、仲間から
『アイモスという名の古物商が、
巨人の地図を持ってるかもしれない』って事を聞いたんだけど……
でも、それが、どうかしたの?」

「いや……
『アイモスが、その地図を持ってる』って事を知ってたアンタなら、
『その地図を、アイモスに渡したヤツが誰なのか』、
知ってるんじゃないかと思ってさ。
その地図を、アイモスに渡したヤツは、貴族の女なんだけど、
その貴族が誰なのか、名前すら、オレには分からねえんだ。
その貴族の女について、アンタ何か知らねえか?」

女は、首を横に振って言った。

「知らない。」

「そうか……
『その地図を、俺に渡すように』って、アイモスに頼んだのは、
その貴族の女なんだ。
そうアイモスは教えてくれた。
だけどアイモスが、オレに教えてくれたのは、それくらいで、
その貴族の女が、誰なのか、
名前すら、オレは知らねえんだよ。」

「『その貴族の女の名前すら、アナタは知らない』って……
アイモスさんは、名前くらい、
ちゃんとアナタに教えてくれなかったの?」

「ああ。
『その貴族の名前を、オレに教えるのは、
その貴族から口止めされてる』とか言って、
結局アイモスはオレに、ほとんど何も教えてくれなかったんだよ。」

すると女が言った。

「でも、この巨人の地図を持ってたってことは、
その貴族の女は、教団の関係者かもしれない……
でもなんで、その貴族は、この地図をアナタに渡したの?」

「そいつは、オレも知りたい。
なんでその貴族が、オレにその地図を渡したのか……
その理由については、オレにも分からねえんだ。
アイモスが、その貴族の女の名前だけでも教えてくれれば、
何か分かったかもしんないんだけど、
アイモスは、名前すら教えてくれなかったからなあ。
……やっぱ、その貴族の女の正体を、
アイモスに教えてもらうしかないな。
さっそく明日にでも……」と言った瞬間、イヤな予感がした。
ヴェネルの脳裏に、さっきの悪夢が、よみがえったのである。
あの悪夢の中で、アイモスは、ナゾの女に殺されてしまった。
ヴェネルは、やたらと胸騒ぎがした。

(なんかヤバイ感じがするぜ……
俺のカンは、けっこうよく当たるんだ……)

深刻そうな表情で、急に黙り込んでしまったヴェネルの事を見た女は、
「どうしたの?」と、ヴェネルに尋ねた。

ヴェネルは、真剣な表情で言った。

「オレ……今すぐ、アイモスに会いに行ってくる。」

女は驚いた。

「こんな時間に?
もう夜の12:00も、とっくに過ぎてるけど?」

「ああ、分かってる。
でも、なんか、イヤな予感がするんだ。」

「イヤな予感?」

「ああ。
アイモスの身に、なにか……
いや、よく分かんねえけど、
とにかく変な胸騒ぎがするから、今すぐアイモスに会いに行ってくる。」

「アイモスさんに会いに行くんなら……
じゃあ、私も一緒に行く。」

「なんで?」

「『あなたに地図を渡した』っていう、
その貴族の女の正体が、知りたいから。
もし、その女が、教団の関係者なら……
私たちロズシークの敵。
敵のことは、知っておく必要があるの。
アイモスさんは、その貴族の女について、知ってるんでしょ?
アイモスさんにもう1度、会って、
その貴族の女について、詳しく話が聞きたいの。」

「分かった。
じゃあ、一緒に行こうぜ……ええと、アンタの名前は?」

「ラミアーナ。」

「よしラミアーナ、急ごう。
アイモスが無事かどうか、今すぐ確かめたいんだ。」

そう言うと、ヴェネルとラミアーナの2人は、
夜の街を、アイモスの店へ向かって、走り出した。